Coast to coast

May.6.r7

COAST TO COAST 2016

八戸ブックセンター

「本のまち八戸」の拠点

青森県八戸市の中心街にある複合ビル「ガーデンテラス」1階に、2016年に全国で初めて誕生した“公設・公営”の書店八戸ブックセンター
書店というよりは、まるでホテルのフロントのような洗練された空間づくりが印象的です。

今回は、所長の石木田さんと主幹の新井さんにご案内いただき、八戸市がこの書店を運営するに至った背景や、施設に込められた思いを伺いました。

 

「本のまち八戸」構想のはじまり

所長の石木田さんによると、八戸ブックセンターの設立は、前八戸市長の政策公約「本のまち八戸」から始まったそうです。

(石木田さん)設計には、ブックコーディネーターの内沼晋太郎さん、建築家の田中裕之さん、アートディレクションとグラフィックデザインをグルーヴィジョンズが担当しました。市民がもっと本を身近に感じられる環境づくりの拠点として、この施設が生まれました。

 

そもそも“なぜ、本だったのか?”と尋ねると

(新井さん)前市長が若い頃、三日町にあった楽器屋と一体になった書店に強い思い入れがあったそうです。多くの知的好奇心を刺激してくれたその空間への想いが、三期目の当選後に“政策”として結実したのが『本のまち八戸』です。現在も、その構想は引き継がれ、形を変えながらアップデートを続けています。

 

“選ぶ”書店としての役割

八戸ブックセンターのもうひとつの特徴は、「選書」へのこだわりです。

(新井さん)多くの書店が“配本”という仕組みで本を入荷する中、ここでは一冊一冊、専門スタッフが手に取って選んでいます。民間書店とかぶらない本を意識的に集めて、市内全体が“ひとつの大きな本屋”として機能するようにしています

(石木田さん)本棚は“テーマ”に沿って並べられていて、専門書と入門書、時には漫画までが隣り合う。そうした意外性のある“流れ”の中で、新しい本と出会うことができます。

選書や企画は、全国からの公募で選ばれた専門スタッフ3名が担っています。中には代官山蔦屋書店でブックコンシェルジュを務めた方もいて、いずれも八戸に縁のなかった人たちがこのプロジェクトのために移住し、運営に携わっているそう。県外の方が地域貢献のために青森を選んでくれたというだけで喜びや誇りを感じます。

 

本を“読む・書く・話す”ための空間設計

館内には、読書会ルーム、カンヅメブース、ギャラリー、カフェカウンターが併設されています。読書をする人、執筆する人、講演を聞く人が、それぞれの時間を共に過ごせる工夫がなされています。

たとえば読書会ルームには、防音性を高めるための有孔ボードやラワン材の押し縁が使われ、扉を閉めると本棚になる“隠し扉”のような仕掛けも。
講演などのイベントがない日には、この部屋に入って読書ができ、本の小口(ページの断面)が手前に見えるように並んでいる様子はとてもユニークです。

取材中も、椅子に腰をかけてゆっくりと本を楽しんでいる方がいらっしゃいました。本を読む姿を見ると、今どんな感動に出会っているのかな?と見る側の想像力を掻き立てられ、非常に魅力的に見えます。

(新井さん)中央にある高さ4メートルの本棚は、縦の仕切りをあえて無くし、奥行きのある“本の連なり”を演出しています。

 

“ジャズが流れる書店”と地域文化のつながり

店内に流れるBGMは、いつもジャズ。これは、2015年に八戸市と合併した旧南郷村で長年開催されてきた「サマージャズフェスティバル」に由来しています。文化を絶やさず、地域と書店をつなげる象徴のひとつです。

カフェカウンターではコーヒーのほかアルコールも提供され、本を片手にゆっくり過ごす来館者の姿が印象的でした。

 

全国へ広がる“公設書店”のモデル

この“公設・公営”という形は、八戸が全国で初めての試みだったそう。今では、北陸新幹線・敦賀駅に開設された『ちえなみき』TSURUGA BOOKS & COMMONSのモデルにもなっています。行政が文化施設として書店を持つスタイルがこれから全国にもっと広がり、行政と民間の距離が近づいていくことはとてもポジティブなことに思います。

八戸ブックセンターは、本を売る場所であると同時に、“本に出会うためのしかけ”が随所に詰まった、まさに「本のまち」の象徴的な施設です。

ぜひ一度、八戸を訪れた際は足を運んでみてください。新しい本と、思いがけない出会いが待っているかもしれません。


Information
八戸ブックセンター
Open : 10:00~20:00
日曜・祝日:10:00~19:00
Closed : 毎週火曜