Coast to coast

Oct.13.r7

COAST TO COAST 1763

高橋家住宅

 

「取材ね。はい。いいですよ。いつがいいかしら。」

取材依頼の電話に出てくださったのは黒石市にある「高橋家」の14代当主 高橋幸江さん。

口調や声のトーンだけでも素敵で、実際にお会いできる日が楽しみになった。

 

国重要文化財に指定されている「高橋家住宅」。

高橋家に伝えられている古文書によると、中町に住み着いたのは享保2年(1717)で、宝暦5年(1755)に現在の敷地を購入、建築は宝暦13年(1763)といわれています。

藩政時代は米殻を扱う黒石藩御用達の商家でした。風情のある建物には、藩の要人がお忍びで通う月見の窓を有した隠し部屋や、米蔵、味噌蔵、文書蔵が今もそのまま残っています。

 

現在は高橋家14代当主の高橋幸江さんが喫茶店を営まれています。

 

 

約束の時間にお伺いすると、ふわっと甘い香りが漂っていた。ちょうど取材日の週末に「黒石こみせまつり」があり、ぜんざいを仕込み中だった。

 

「どうぞ、おかけになって。」

電話口と変わらず、気さくで優しい高橋さん。高橋さんが醸し出す空気感と、時を重ねた建築から感じる歴史の重み。取材が始まる前から高橋さんと高橋家の建築の魅力に惹かれてしまう。

 

現在もここに住みながら家を守っている高橋さん。

「生活してこそ、家なのです。代々そうやってこの建物を守ってきました。

住んで守れというのが高橋家の鉄則ですから。

先代はとても厳しい人でした。けどそのおかげで今があります。

そりゃあ、色々不便ですよ。段差は多いし、冬は寒いし。修繕するのも大変。

けどこの家は素晴らしい。夏は風がよく通るし、あとこの土間。土でできた土間は日によって乾燥していたり、湿っていたり。乾燥していたら水をよく飲むようにしますよ。そうやって自然が教えてくれる。段差だって、この段差のおかげで強い足腰でいられるのよ。」

*高窓と呼ばれる吊り上げ式の障子窓。煙出し、採光、換気を目的として作られている。

 

*現在はコンクリート土間が多いが、土でできた土間。「通り土間」と呼ばれ、踏み心地が良い。

 

*出格子窓。

 

 

「ただやはり管理維持がとても大変。文化財は簡単には補修できないのよ。普通の住宅みたいに近くの大工さんを呼んで直すわけにはいかない。

昭和48年2月に文化財に指定されたのね。その時の状態に戻すという修繕をしなければならないの。例えばヒバを使っていればヒバで直さなければいけないが今とても高いでしょう。個人負担額も多くて維持管理で苦労して、売りに出す人も多いわ。」

 

13代目の義父が亡くなってすぐにご主人を亡くした高橋さん。東京から嫁いできて苦労も多かったそう。

それでもずっとこの家を守ってきた。

 

「立派な建物ですからね。おいそれと近代的なものに直そうという考えはさらさらないですね。今こういう建物を建てようと思っても絶対できませんからね。一度も解体・復元していませんから。それは日本で高橋家だけ。とても誇りに思っているわ。」

 

 

今でも正月は代々高橋家に伝わる正月料理を作って、家族が集まり食事をする。

客間から見える庭はまるで絵のようだ。

*客間

すると、コーヒーを飲みに来ていたお客様が1枚の写真を見せてくれた。

「紅葉の時はもっと綺麗なのよ。この写真は私のお気に入りなのよ。」

 

 

 

「特別に隠し部屋にも上がってみるといいわ」

 

下から見るだけでもわくわくしたが、実際に上がれるなんて!大興奮!

 

*隠し階段になっている。

 

*月見の窓を有した隠し部屋

 

*障子も襖も当時のまま。

 

 

 

 

長い歴史の中でこの家での営みは変わってきた。それでも建築は残っていく。

建築に携わるものとして新しいものももちろん大事だが、「住みつないでいく」ということは理想的なことである。

こんなに長い年月、しっかりと住みつないでこれた理由を聞いてみた。

 

「それは、当主の考えや気持ち全てを、家族が繋いできたからだろうね。先代の考えが浸透しているのよ。

どんどん時代は変わっていくけど、機能性や利便性だけを求めていたら味気ないじゃない?

料理も同じよ。手間暇かかるのが料理。今は時短とかいろいろとあるけどね。それじゃだめよ(笑)」

 

今回の取材では、建築の魅力や歴史を感じたのはもちろん、14代目当主の高橋さんの魅力や先代への想いに触れることができた。

建築はものを言わないが、建築が伝えてくれることは多くあるように思う。

次世代に残そうと強い気持ちで家を守り続ける当主の想いや、先代への感謝が建築への愛情となり、

それがまた次の世代へとつながっていく。これからの高橋家の未来もとても楽しみである。