Coast to coast
Jul.26.r7
COAST TO COAST 1964
弘前市民会館
( 弘前市提供 )
今回は日本のモダニズム建築の巨匠・前川國男氏が設計した弘前市民会館を訪問しました。
市立博物館とともに史跡 弘前城(弘前公園)の一角に設けられ、生涯学習や文化活動の拠点として、講演会や演劇、コンサート、市民文化祭などに利用されており、弘前市民に親しまれています。
世界的建築家ル・コルビュジエに師事し、戦後日本の建築界をリードした前川國男氏の建築は弘前市に数多く存在します。機能性と合理性だけではなく、前川氏ならではの素材や色彩の取り入れ方も楽しみにしつつ、弘前市民会館 館長 工藤明夫さんにナビゲートいただきました。
工藤さん 「弘前市民会館が1964年に出来上がってから今年で61年になります。2012年から2014年に、コンクリートが崩れた部分の補修や、その他内装、付帯設備等の大規模な改修工事がありましたが、ほとんど当時のまま残されています。日本中に様々な会館がありますが、その中でもこの会館の空気感や色使いは素晴らしいなと思います。弘前市には前川氏の建築が8カ所ありますが、すべてをツアーのように見て回っている方が多いですよ。」
コンクリート打放しの外壁は、木目型枠により暖かい表情を見せている
ステンドグラス「青の時間」 原画・監修:佐野ぬい
企画:公益財団法人 日本交通文化協会
製作:クレアーレ熱海ゆがわら工房
星のような照明に、佐野ぬい氏のステンドグラス「青の時間」の美しさに心奪われる。
上りやすい勾配、つい撫でたくなる手摺り。冷たそうな印象の素材を、重みを感じるどころか温かく感じるのは前川氏ならではのデザイン。
前川國男には前川カラーと呼ばれる独特な色彩がある。
青森県産ブナの木を使ったホール客席の壁面は、平面と曲面で構成されており音響は日本でも指折りと言われている。
前川氏の建築は、同世代の建築家と比べても、派手さがありません。ですが実際に訪れると、いわゆる“映える”とは違う、味わいや温もりが伝わってきます。この日は弘前出身のスタッフも同行しており、訪問をとても楽しみにしていたのが印象的でした。20代の女性が公共施設にここまで思い入れがあることに少し驚きを感じました。
【弘前出身スタッフ】 りんご娘のコンサートや演劇鑑賞、文化祭、合唱コン、成人式。仲間との楽しかったイベントのほとんどはこの弘前市民会館で行われてきました。あの頃は建物の魅力を楽しむよりもおしゃべりに夢中で…。
建築に携わるようになった今、改めてこの場所を訪れると、当時の思い出は、前川建築の仕掛けによって成り立っていたのかもしれないと思いました。例えば、幼少期には少し怖いと思っていた、地下席へ降りる階段は、ステージに近づくドキドキ感を演出しているように感じます。私が感じた今回の経験は、今の学生が大人になった時も同じように経験して欲しいと思います。弘前市民会館がこれからもずっと市民に親しまれる建築物である事を願います。
「近代的なしかも人間的な弘前の町づくりの一端ともなれは私共にとりまして望外の幸せと存じます。」
市民会館が竣工した時に前川氏が寄せた「設計者のことば」の一文です。この前川氏の願いの通り、前川建築を誇りに思い、次世代に引き継いできた弘前市と市民の方々。弘前市ならではの文化や景観・町並みを守り、自分たちが住む地域を大切にする気持ちを持ち続けることはそう簡単にできることではないだろう。今回は前川建築を学びながらも、弘前市や市民の方々の魅力にも触れられた気がした。
弘前市民会館
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青森県弘前市大字下白銀町1番地6 |