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May.1.r6

コラム COAST TO COAST 5

Coast to Coast 5月のコラムはra kra 編集長 大坪秀之さんにナビゲートいただきます。

ra kra 北東北(岩手・青森・秋田)の地域密着型情報誌

食・文化・人・自然など、さまざまなジャンルにわたって北東北の魅力を再発見できる情報誌です。地元の人しか知らなかった通(ツウ)な情報や、週末に役立つ情報など、ラ・クラ独自の目線で紹介。旅行雑誌やガイドブックには載っていない、北東北の魅力がたっぷり詰まっています。

 


Harvest

どこまでも平野が広がる三沢へ


数年前のこと。農作物の取材で、三沢とのご縁を頂いた。三沢は個人的に海というイメージが強かったが、来て印象的だったのは、どこまでも続く広い平野だ。三沢の大地は、抜けるような青空と土の黒、そして青々としたごぼうの葉のコントラストが大地にトリコロールの模様を描き出していた。

盛岡に暮らす僕にとって平野は、いつも視線の先に山がある。三沢の平野は、車で走ると、地の果てに辿り着くのではないかと思う。

 広大な大地では、主にごぼう、長芋、ニンニクが栽培されている。畑を案内してくれたのは、当時の三沢市の担当者・柿本潤さん。取材は秋から始まった。広い畑では、やませの冷涼な風が僕たちを迎えてくれた。

 

はじめて見るごぼうの収穫

ごぼう農家の畑では、小柄なお母さんが大きなトラクターを運転していた。土の中のごぼうが次々と引き抜かれ、収穫されていく。許しを頂いてごぼうをその場で手折ると、中は真っ白。これは「柳川理想」という品種。「ここはね、平地だからね、ごぼうは育てやすいの。お天道様の恵みよ」とにっこりほほ笑んでくれたお母さん。ふわふわの土の中で育ったごぼうは美味しいに違いないと思った。

寒さの中、長芋の収穫

長芋の収穫を取材した頃は、雪が降っていた。寒い中の収穫は大変だ。ここでも、ご夫婦が仲良く収穫作業していた。掘ったばかりの長芋は甘くてシャキシャキしていた。こんなに美味しい長芋は初めてだった。三沢の地は、土が柔らかく根菜類の栽培に適しているのだと教えてくれた。

広い大地のどこまでも続く収穫作業。それは決して楽なものではない。そんな中でも、生産者の皆さんは忙しい手を止めて僕らに話を聞かせてくれた。取材では話が脱線することもしばしば…この時は何故かご夫婦の馴れ初め話へと。寒さも忘れるほど大笑いした。

僕らも楽しくてつい長居をしてしまうのが悪い癖なのだが、実はこの時が本当に楽しく、取材対象者の笑顔がたまらなく好きだ。

そしてなにより生産者さんが、リラックスして取材に応じてくれたのは、三沢市の柿本さんの人徳の賜物なのだと思う。信頼できる人がいると、表情もより一層和やかになる。

春、柿本さんのニンニク畑へ

春になり、三度三沢を訪れた。柿本さんのご実家は、ニンニクの栽培もしている。僕らは、柿本さんのお母さんと一緒に畑に行き、ニンニクを収穫させてもらった。ニンニクの収穫期には、畑一帯がにんにくの香りに包まれ、黒い土の中から真っ白い、大きなニンニクが顔を出した。これまでニンニクと言えば、スーパーで売られているものを想像していたのだが、お母さんが丹精込めて育てたニンニクは想像をはるかに超える大玉。

収穫したばかりの生にんにくは、糖度が38度あるという。シャインマスカットが糖度25度前後ともいわれているので、比較するとかなりの糖度だ。

加えて、特有の辛みが存在する。ニンニクを切断し細胞が傷つくと、「アリシン」という成分が生成される。実はこの「アリシン」には非常に強い殺菌力があり皮膚の潤いを保つアミノ酸を破壊する。アミノ酸を失うと皮膚の細胞も壊れ、やけどと同じような症状を起こしてしまう。だから、ニンニクの生産者さんたちは収穫時には必ずゴム手袋を装着して作業するという。

取材の最後に、お母さんが収穫したての生にんにくをホイル焼きにして振る舞ってくれた。

癖のない甘みと主張しすぎないホクホクとした食感の優しい味は、これまで取材してきた三沢の生産者さんとどこか似ているように思えた。

すっかりお世話になり、同行していたカメラマンにお願いして、記念にと柿本さんとお母さんの2ショットを撮影してもらった。後日、せめてもの取材のお礼と思いお母さんに差し上げた。

しばらくして、私のもとに1通の手紙が届いた。送り主は、先日取材した柿本さんのお母さんからの手紙だった。その手紙には、「息子と写真を撮ったのは小学校以来で写真を大事にします。ニンニクも息子たちの手伝いもあり、何とかやっとります。8月に入ると作っている野菜のどれかが食べられるようになりますので、その頃こちらの方に来ました時はまた、寄ってください。 (ばあちゃんより)」とのお礼の手紙を頂いた。

優しく、心温まる手紙に取材時に振る舞って頂いたニンニクとどこまでも続く平野と思い出していた。

 

ユネストホーム editor’s voice

このあと初めて柿本さんのニンニクをいただく機会がありました。真っ白でタピオ・ヴィルカラのオブジェのような大粒のニンニクは美しく愛らしくで、数日鑑賞してしまいました。大坪さんから素材そのままを味わえる調理がおすすめとのアドバイスを頂いきましたので、お肉や野菜と一緒にそのままオーブンの中に。のんびり50分程タイマーのカウントダウンとガラス越しに色付きをながめる贅沢な時間、口の中はもうニンニクへの期待度でいっぱいです。オーブンから取出して、ひとかけら。滑らかに舌の上で溶けるような食感と、焼き桃にも似た香ばしさと上品な甘さが後から広がります。もう一口とつまみ続けていくと、やっと4片ほどあたりからニンニクだと脳が認識するんです。県産のニンニクはとても有名ですが、ガーリックではなくニンニクというフルーツですね!ほんとに別格でした。